株式会社 ジェプロ・フォーラム

 Japan Environment Project Forum

 

 

スーパー堤防とテラス護岸  ―隅田川の親水対策―

水辺を取り戻す  かつて「大川」として人々から親しまれた隅田川も、1963年(昭和38年)から作られ10数年後に完成した堤防によって、人々は水辺から遠ざけられてしまいました。

この切り立った堤防は「かみそり堤防」と呼ばれ、川岸を歩こうにも人々は堤防のなか側しか歩けず、そこからでは水面を見ることもできません。水にさわろうなどというのはもっと無理な話です。

災害から市民を守るため堤防が作られ、その結果人々が水辺から遠ざけられてしまうのは、隅田川のような大河川であれ、神田川のような小河川であれ、都市河川においては仕方がないことかもしれません。

しかし都市に残された唯一の自然である川に対する人々の欲求は根強いものがあり、河川行政においても人々が水に親しむという親水機能を高めるための工夫がなされています。昔とは大きく変わった新しい川の姿を見てみましょう。

隅田川では、一度は失われた水辺を再び人々に取りもどそうという試みが行われています。

それらの工夫は隅田川を走る水上バスや、隅田川に架けられた橋の上からよく見えます。

スーパー堤防   大川端や新川・箱崎地区のようなところでは、川沿いでのマンション建設やオフィスビル建設などの大規模開発のときに、川の後背地に盛り土をし、かみそり堤防の上部を切り取って川に向かって緩やかな堤防が作られています。新しく作られたビルやマンションはこの大きな堤防の上に立てられたような格好になっています。水上バスから見ても、ビルやマンションの1階部分がかみそり堤防の後ろに隠れてしまうのではなく、堤防の上に見えるのが特徴です。

こういった、その上にビルが建ってしまうくらい幅の広い堤防は、「スーパー堤防」と呼ばれているもので、耐震性が高く、治水上の効果も高いのです。それだけでなく川沿いの市街地再開発や建物の建て替えなどの、まちづくりと一体となった河川整備を行うことができます。そして堤防の前面には傾斜の緩やかな護岸やテラスを作ることができ、景観的にも優れた人々の憩いの場として機能しています。このスーパー堤防で隅田川の両岸がおおわれたとき、隅田川の水辺の様子も一変するでしょう。

テラス護岸  隅田川を行く水上バスあるいは隅田川に沿って走る高速道路の上からは堤防の前に張り付いたような「テラス」と呼ばれるものを見ることができます。堤防から川にせり出すようにテラス状の埋め立て地が作られたもので、かみそり堤防からは階段で下りられるようになっています。


台東区と墨田区が桜橋付近に短いテラスを作ったのが始まりで、東京都ではスーパー堤防の前面にはこのテラスを作るほか、将来スーパー堤防ができることを見越して先行的にテラス事業を行っています。このテラスは本来堤防の耐震性を高めるために作られたのですが、同時に水辺を人々に開放するという役割も持たせるため、木を植えたり、ベンチを作ったり、都民の憩いの場になるように工夫されています。

しかし、今このテラスの多くの部分は、青いビニールシートでくるまれた大きな段ボールに占領されています。ホームレスの人たちの段ボールハウスです。不思議に規則正しく等間隔に並んでいるよう見えるのは、「しきり」をする人がいるかららしく、入札によって、段ボールハウスを置く場所を決めているのを、見かけた人もいます。都心の地下街の段ボールハウスなどと比べ、大きさも大きく、扉もついて格段に家らしくなっています。中にはここからスーツにネクタイ姿で出勤していく人もいるということです。


東京都ではこれらのハウスがより大きく、また固定的なものになることを防ぐため、月一回程度の特別清掃を実施しています。一週間前に清掃の予告が出され、清掃時にはホームレスの人たちはハウスと一緒に立ち退くが、清掃が終わればすぐ元通りに家が建ち並びます。人々が水辺に憩える隅田川の新たな風物誌となるべく作られたテラスも、時代の流れの中で、予想もしなかったような空間に変化を遂げているようです。

 
 

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